投稿日:2017/05/05 更新日: 雑記

【書籍紹介】1秒って誰が決めるの?: 日時計から光格子時計まで

著者 :安田 正美
出版社:筑摩書房
発売日:2014/6/4
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概要

著者は産総研の研究者で、「イッテルビウム光格子時計」と呼ばれる高精度な時計の研究開発に取り組んでいます。本書は時計の過去、現在、未来のわかりやすい解説がメインになっていますが、著者の研究者としての考え方に関する記述が印象に残りました。その中でもここでは、「基礎研究に取り組むこと」と「その中でトップを目指すこと」の重要性について触れてみます。

基礎研究に取り組む重要性

現在多くの状況で使用されているGPSは、原子時計という50年ほど前に開発された技術を用いて実現されています。しかし、原子時計が開発された当初、その技術がGPSのようなものに応用できるとは誰も想定していなかったそうです。同様に、現在著者が研究している光格子時計も、それが何に使えるかは誰もわからない、と書かれています。それでも、時間を正確に測る時計を開発する基礎研究に取り組むことの重要性を、著者は次のように述べています。

まず、時計が存在することが重要なのです。何かしたいと思っても、そのときによい道具がないと、いくら後から追いつこうとしても無理なのです。その時点では、将来どのように実用化されるか必ずしも明確になっていなくてもよいから、究極の科学技術を一つ持っておくと、そこから無限の広がりが生まれていきます。「究極の1秒」を追い求める科学は、そのような無限の可能性をもっているのです。

「必ずしも明確になっていなくてもよい」とあるように、ある程度は実用化の可能性を研究者が発信していくことも重要だと思います。本書でも、光格子時計の応用可能性を具体例を交えていくつか紹介しています。そのようにすることで、他分野の研究者からも、「そういう可能性があるのなら、自分の研究でもこういう使い方ができるかもしれない」といった反応が得られ、思わぬ応用が実現する可能性も高くなるはずです。

トップを目指す重要性

過去の「2番じゃだめなんですか」という有名な発言に対して著者は、「この問いは、科学者の独善や傲慢に対する警鐘の意味もある」と一定の理解を示しつつも、やはり科学技術分野では1番を目指さなくてはならない理由を以下のように述べています。

しかし「2番でよい」といったら、2番にもなれない厳しい世界です。1番を目指せばそれなりに上に行けますし、研究者としても、やはりその方がやりがいがあるものです。また、そのような競争があるからこそ進化が速まる面もあります。

他にも、1位になることで、科学技術立国として国際的に一目置かれ、国内外から優秀な研究者が集まってさらに研究を発展させられる、という可能性もあります。また、企業が自社の製品に基礎技術を使いたいときも、どうせなら世界トップの技術を使おうとまずは考えるのではないでしょうか(もちろん、1位の技術を使うには莫大なコストがかかることが発覚して2位の技術を使う、ということもあるでしょうが)。その結果、技術を提供できれば、金銭面での対価も得られるはずです。
著者も述べていますが、資源の乏しい日本ではなおさら、科学技術立国としての国際社会での存在感を示すことが重要であり、そのためにはトップを目指すべきであるはずです。

まとめ

この紹介文では、著者の研究者としての考え方を紹介しましたが、冒頭にも述べたように、本書のメインは時計の過去、現在、未来を、前提知識のない人にもわかるように解説している点にあります。1秒を測る精度を上げるための様々な試行錯誤の歴史を平易に読み進められる、お薦めの1冊です。


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